IPT様は、スタンダードなデザインが基本となる美しいフォルムで、使う人にマッチしたオリジナルパターを造るパター専門の工房です。代表取締役山田様ご自身、プロゴルファーという肩書きを持ち、パターを知り尽くした経験からCAD/CAM、マシニングセンター、彫刻機による最先端技術を使ったパターヘッドを造られています。ゴルフのプロや上級者にも愛用され、国内外に高精度なパターを送り出すだけでなく、現在は、パッティングの技術向上を目的としたシステム開発を推進されています。
今回はSpace-Eの導入経緯と活用、そして、本当に入れるためのパターを追究されているお話などをお伺いしました。
2000年にNHK報道特集「NHKスペシャル」でインクスが紹介され、これまで45日かかっていた携帯電話の金型工程を6日に短縮したという番組を見ました。このとき、インクスの若い社員が背広を着てCAD/CAMの操作をしている場面を見たとき、ある意味ショックを受けました。そして、この番組を見たことが、ビックサイトで開催されていた設計・製造ソリューション展に行くきっかけになったのです。それから、全国のものづくりの好きな仲間が集まって、意見交換をするために立ち上げていたメーリングリストの中でも、3次元CAD/CAMが話題になっていたので、興味は持ち始めていました。
それまでは、2.5次元の彫刻CADで2次元の線分を元に立体形状を作っていたので、あまり3次元CADの必要性を感じていませんでした。ですが、実際に設計・製造ソリューション展でいろいろな3次元CAD/CAMを見ることで刺激を受け、Space-Eを導入することにしました。
私は、アメリカに10年住んでいたこともあり、PCへのアレルギーはなかったので、Space-Eも抵抗なく操作できました。ただ、その頃はSpace-Eの講習会に行く時間がなく、分からないことを聞きながら操作をしていました。
代表取締役 山田 透 様
昔は図面を手で引いていたので、方眼紙に2次元図面を起こし、関数計算機で円弧の接点を求めるなどの幾何計算をしていました。その頃に比べると作業も簡単になり、モデリングからNCデータ出力までをSpace-Eで行っています。
まず、2次元図面のDXFをSpace-Eに取り込んで3次元形状を作成します。今では、ほとんどのパターをSpace-Eでモデリングして、彫刻は2次元CADで作業しています。この彫刻などを合わせたNCデータは、20万行を超えることもあり、以前は自分で書いていたので、Space-Eを導入して非常に楽になりました。
それから、Space-Eはイメージした形状をそのまま作れるので、自由な発想のデザインを形にできるようになりました。Space-E上で綺麗なデザインができると、本物はそれ以上に美しく、品良く仕上がります。デザインは、Space-Eのおかげで自由度がアップしました。あのとき、Space-Eを導入していなければ、今はないと思います。
また、Space-Eのバージョンアップをすると一時的に使いづらく感じることもありましたが、慣れてくると新機能が使いやすくなりました。やはり、今後はSpace-Eをもっと使いこなしたいと思います。
Space-Eでパターヘッドのモデリングから
NCデータ作成まで行う。
NCデータをマシニングセンターへ送信
してパターヘッドの形状を切削する。
ドライバーやアイアンとパターの目的は違います。まず、ドライバーやアイアンは、ボディーターンにより大きなエネルギーをヘッドに得るための動作になります。手で打つのではなく、コンパスのように体を回転させます。反対にパターは、できるだけ真直ぐに打つための動作になります。フェース面が常にスクエアを保つためには、真直ぐなストロークが必須になります。ゴルフのスコアメイクで一番大切のは、パターだと思います。
これまでのゴルフは、経験と勘、そして練習の積み重ねでプレーされてきました。メジャーなチャンピオンシップになると、賞金額も大きくなり、優勝すると名誉も得られるわけです。ですが、プロでも2mのパターを確実に入れることは難しく、これまでの経験や勘に頼るプレーに納得できなくなりまし た。
ドライバーやアイアンは、200〜300m離れたところから打つので、確実な距離、正確な方向を狙うには人間の能力が及ばない範囲の運動だと思います。でもパターになると、傾斜と芝面、転がる速さとブレーキ、そして曲がりの量になるので、分析しやすい要素があります。パターは、数値解析に向いている分野なので、これを解析する方法があれば、もっと確実にパターを入れることができるのです。
また、良いパターを造る条件として、見栄え、タッチ、転がり、据わり、バランスなどが言われますが、これは人間が思っている感覚的なことで見た目や打感です。これを造る側が実現するには、何らかの数値に置き換える必要がありました。
そして、このことに気付いた20年前から、100%の確立で2mのパターを入れるためのデータを収集し、それを解析して独自のシステム開発を進めてきました。それが今、全部まとまったところです。当社の基本的な業務内容は、パターのデザインとヘッド製造、販売ですが、それ以外に、これまでパッティング ストローク矯正機、パッティング ロボット、デジタル パターなど、いろいろなシステム開発を行っています。
道具としてのパター開発は、99%完成していますが、パッティング技術になるとまだ初期段階です。確かにグリーンは傾斜があるので難しいのですが、入れるための方法はいくらでもあります。
当社のパターは、手造りで価格も高いため、「高いパターを使っても入らない。」と言われるのが嫌で、それであれば腕まで作ろうと開発したのが、パッティング ストローク矯正機です。ダブルのストレートバーとリング 付きのパターがセットになったものです。
実験では、1.4mオーバーするように強めに打ってもボールが穴に入ることは実証済みなので、多少傾斜があっても2mを確実に入れるためには、必ず直線で狙うことが重要です。
ブレークするような方向だと必ず外れるので、外れないようにインパクトの瞬間を正しくするために、ストローク矯正機で練習します。多くの人は、弧を描くようなパッティングになってしまいがちですが、ストローク矯正機を使うと真直ぐになります。はじめは違和感を感じますが、1日5分間練習して1週間ほど続ければ、真直ぐなストロークを体が覚えることができます。実際、これを使っているプロも数多くいます。
このストローク矯正機は、15年前に日本で特許を取得しています。そして今、アメリカで特許を出願しているのは、リング部分がどのパターにも取り付けられるように、ピンで留める構造になっています。
パッティング ストローク矯正機
パッティング ロボットとは、175cmのプレーヤーの骨格をしたパッティングマシンです。 パターの芯に当たらない場合は、微妙にグリップが動くので、動かないようにバネで調整することで、正確なパターの性能を計測できます。この測定値は、各ゴルフ雑誌のパター性能を比較するためにも使われています。私自身もパッティング ロボットでパターの検査をして、ゴルフダイジェストなどに記事を書いています。
良いパターというのは、芯が広くて少し外れてもよく転がると言われているので、全部同じ条件で分析できるこのロボットを使って、どれほどの誤差が出るのかを測定します。このパッティング ロボットは、ヘッドのメーカにご購入いただいています。
パッティング ロボット
デジタル パターというのは、パターにデバイスを組み込んで、そのパターを振ってパソコンで使用するタブレットを2枚並べた装置により、1/8000秒毎のデバイス位置を検出するというものです。
パターを振るときに仮想のボールがあり、ボールに当たったときの衝突判定式を実行することで、ヘッドが進もうとしているベクトルとフェイス面の開き具合、ヘッドスピードや芯のどの部分に当たったかなどを全部解析できるシステムになっています。
また、デジタル パターを使うことで、何が良くなるのかをよく聞かれます。それは、ストロークするときのボールポジションで、一番スクエアになる位置を発見できることです。その位置にボールを置けばいいわけです。
これまでの定説は、左足のかかとの線上にボールを置くことになっていますが、それがいいのかは誰にも分からないわけです。ただ、そうしたほうが入ったときが多かったという感覚的なものです。それがデジタルパターであれば、あなたの場合は、左足のかかと線上から3cmずれたところにボールの芯を置いたほうがスクエアのゾーンが大きくなる、というようなアドバイスができるのです。
パッティングの技術は、緻密な向上心を持って、クラブを扱うコツを身に付けることが重要で、そのコツをデジタル パターなどで学べます。これにより、通常気が付かないところに目を向けることができるのです。
デジタル パターとアナログ パターの違いは、デバイスを使うところです。このデバイスは、コンデンサを巻いているだけで電源は持っていません。トランジスタも入っていないので自然物です。10mm×8mmのコイルが電磁波を受けて、それを返すのがデバイスで、5m先の1.24mmの誤差まで解析する能力があります。これだけの精度がなければ、デジタル パターの意味がありません。
このデバイスは、国際特許を取得しているので、他メーカが作ったパターに対して、デジタルのデバイスを供給することも考えています。
グリーンの傾斜を読み取る能力も勘を頼っているので、この装置も作りました。
湾曲したお皿の上に簡単な鉄球を乗せてグリーン上に置くと、右傾斜、左傾斜、上り、下りが瞬時に測定できる傾斜読み取り装置です。
デジタル メトロノームも開発しています。
これは、どのような距離でもボールに当たるまで同じリズムでスイングするためです。そのリズムをデジタル メトロノームで確認できます。
このように、入れるためのパッティングに必要なことは全て分析しています。
開発したシステム、機器は、オリジナルパター造りにも活用しています。例えば、芯が広いパター開発にはパッティングロボットを使っています。そしてパターが入らない原因をデジタルパターで探して、良いパター造りに活かしています。
またパターは、人が使うものなので機能だけを追究するのではなく、使う人が自尊心を持てるようにデザイン的にも考慮した良いパターを目指しています。
この業界は、トラッドな名機が高級品で、現在の奇抜なデザインが安っぽく見られる傾向があり、新しいデザインが造りにくくなっています。そのため、機能的には発展させながら、トラッドな名機のデザインを少しだけ変更したものを提案しないと、高級品として受け入れてもらえません。
それから、パターはゴルファーの心理を理解できないと、造っても売れないと思っています。そして、アジャスティングも非常に大切で、長さ、グリップ、バランス調整や、その人の効き目によってシャフトの入り方を変えるなど、当社は細かなご注文に対応しているので、使いやすいパターだと言われます。
また当社には、オリジナルデザインというよりも、既に存在するパターを作ってほしいという依頼が多くあり、この削り出しは量産の加工より高い技術力が必要になります。
オリジナルパター
パターを作るメーカは沢山ありますが、当社のように付加価値を付けるメーカはないと思います。社名にインダストリアルパッティングテクノロジーを掲げているので、ただのパター屋ではありません。これまで説明してきましたが、確実なパッティングをするための傾斜読み取り装置とストローク矯正機、そして、デジタル パターでパッティングの悪いところを見つけて、パター ロボットで良いパターの開発をする、という4つを中心に展開しています。あとは、心理面、体調面なども考慮しながら、TPMS(トータルパッティングマネージメントシステム)というボールを入れるための要素を整理して開発しています。アメリカでは、トーナメントプロのパッティングの指南に、このTPMSを採用する方向に動いています。
他のスポーツやF1もそうですが、スタッフが試合前に技術、道具、体調など全部をチェックしています。でもゴルフは、1人でボールを打って18ホールを回るわけです。プロであればその人の基本があって、ボールを外したら必ず解析して調整することをしていると思いますが、まだ勘や経験に頼っていることも多くあります。だからこそ、入れるためのパッティングを模索して、機械的に検証するための業界のスタンダードを作りたいと考えています。パターに関しては、特別な基準が今はないのです。
入れるためのパッティングを世界レベルで実現したいと思って、ようやく製品化できるところまできました。
去年、東京で開催されたゴルフショーで、これまでの当社の取組みをアメリカのある会社が認めてくれました。当社のようにパターに関して解析、開発を進めて、具体的にシステム、機器を準備している会社が存在したとこを知らなかったようです。この会社と販売契約を結び、今はアメリカをはじめとする全世界に当社のシステム、機器を販売する準備を始めています。